東北大学新聞:

本学付属病院 脳死腎移植を実施

高知で摘出された臓器は、大阪、長野、長崎、そして宮城・東北大学へ-2月28日から3月1日にかけて、日本で初めて脳死者からの臓器移植が行われた。本学も関係した今回の臓器移植を、当部では2回にわたりお伝えする。第1回は、本学での腎臓移植手術の概要と日本初の脳死・臓器移植についての本学関係者のお話を掲載する。第2回は、プライバシー・情報公開の問題と本学附属病院の移植医療への取り組みについて、5月号に掲載する予定である。

1.手術はどう行われたのか

 移植手術は3月1日午前1時58分から本学附属病院で、里見進・本学医学部第二外科教授ら4人の医師を中心とする移植チームの手によって行われた。

 まず、患者の体内に腎臓を埋め込む位置を確認した後、血管等をはく離。それから、レシピエントの体内に腎臓二個を残したまま、高知赤十字病院のドナーから提供された腎臓を右下腹部の骨盤内に移植した。最後に尿管、動脈、静脈を吻合。こうして、1日午前6時10分、4時間に及ぶ手術は終了した。

 腎臓提供を受けたレシピエントについて、附属病院は「東北地方に住む中年患者」と発表している。腎不全を患い、これまで在宅で人工透析を続けてきたそうだ。

 レシピエントはどう選ばれるのか。脳死患者が発生し、臓器提供の意思が明らかになると、日本臓器移植ネットワークの登録患者の中からレシピエントが選ばれる。登録患者は、HLA(白血球抗原系)と呼ばれる白血球の組織の型をネットワークに登録している。HLAの中には特に重要な6つの抗原があり、ドナーとレシピエントの抗原が6つとも合えば拒絶反応も起こりにくく、したがって移植も成功しやすい。

 ネットワークでは、HLAが全て適合している登録患者を優先して選んでいる。このシステムは、公平に臓器を配分するため、誰が見ても正当なレシピエントが選ばれるよう考え出されたものなのだ。

 レシピエントに対するインフォームド・コンセントも医師の重要な仕事である。里見教授によると、手術が成功・失敗する可能性、および術後に感染症にかかる危険もあることなどを手術前日に説明、本人と家族からサインによる同意を得たそうである。

 里見教授によると、患者の尿量は多く、腎臓は順調に機能している。

2.今回の移植の意義

 臓器移植法施行後に日本で初めて行われた脳死・臓器移植をどう考えるか、本学関係者に話を聞いた。

 本学での脳死腎移植を執刀した里見教授は「生体腎移植や死体腎移植と特に大きな違いはなかった」と述べている。腎臓は比較的生命力が強く、保存も効く。加えて、これまで第二外科では93例の腎臓移植を行っており、技術的にも問題はなかったという。「今回は、脳死判定から腎臓が摘出されるまでの時間が短かった。そのことが患者にとってはよかったと思う」里見教授はこう付け加える。

 今後の影響については「日本でも臓器移植ができるということを知った人、移植医療は自分たちにも関係あると思った人が増えたと思う。脳死臓器移植には反対も多いが、こういったことに100パーセントの賛成はありえないし、個人的にも全体的にも心の揺れがあるのは普通だろう」とし、臓器提供に対して一人一人が明確な意思表示をしてくれれば今回の移植は意義がある、と結んだ。

3.脳死者からの移植が理想的

 また、脳死判定委員長を務める吉本高志・本学医学部附属病院脳神経外科教授は「腎臓や肝臓は生体間での移植も多く行われてきたが、臓器は脳死者からの提供が理想的だ」と述べ、今回の移植で心臓移植も初めて行われたのは、画期的なことだとしている。

4.ドナーへの配慮は不足

 ドナーとその家族の立場から脳死・臓器移植に対して発言している清水哲郎・本学文学部哲学専修教授は「現在の風潮では、ドナーの家族に対する配慮が欠けているのではないか」と訴える。

 「そもそも喜んでドナーになる人は誰もいない」と清水教授は強調する。それにもかかわらず、今回の移植報道では、ドナーやその家族の不幸、無念さへの配慮が欠けていた、という。

 清水教授は「自分がドナーになったときに臓器移植を認める四条件」として
  ①家族に対して説明し家族が希望した場合には脳死判定を行う
  ②家族が自分の死を悲しみ死を受容できるだけの時間を与える
  ③臓器提供の内容を説明し同意するかしないか家族自身で選べるようにする
  ④①~③の間は生命維持を行い、それまで命がもたなければ移植をあきらめる
を挙げる。しかし、と清水教授は続ける。「たとえ規定されなくとも、医療者は①~④のようなことを行うべきだ」

 また、今後の移植医療については「これから移植医療が定着した時、ドナーや家族の意思に配慮する姿勢が守られるか心配」とし、ドナーや家族の気持ちを尊重するために、基本的なラインを早めに引いておく必要がある、との考えを示した。

5.社会的弱者の自己決定権を

 東北大学「障害者」解放共闘(サークル輪、日就・有朋寮各反対団体)は「脳死・臓器移植は生命の価値に優劣をつけ、社会的弱者の切り捨てにつながる」として、脳死を人の死とすることに反対している。

 解放共闘は「今回の移植は不明確でずさんな点が多い」と述べる。彼らの主張によると、今回行われた脳死判定は、恣意的に脳死状態を作り出すものだったという。例えば無呼吸テスト(人工呼吸器を少しの間外して自発呼吸の有無を調べる)の実施。「無呼吸テストは、脳死判定に必須でない上に患者にも負担をかけ、救命医療の精神と正反対のものだ」解放共闘は、たとえ二度と回復しないと診断されたドナーでも、救命措置が全うされて然るべきだと主張する。

 また「国は社会的弱者の自己決定権をないがしろにして実績作りに励んでいる」とも主張、今後も移植医療の監視や、脳死は人の死ではないと訴える活動を続けていくと話した。その一環として解放共闘では、社会的弱者の立場から脳死に反対している天笠啓祐氏を講師に招き、講演会を4月21日に行うとのことである。

 自分の死といかに向き合うか-今回の脳死・臓器移植で問われているのは、まさにこのことではないだろうか。

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