東北大学新聞:

イカトン デート指南~二人だけの甘い時間~

「待ったあ?」 (314号)

夕暮れの水時計前にあの子がやって来る。十分近く待っていた僕はややぎこちなく、待ったよと答えた。

「じゃあどこに行こうか」

ちょっと慣れないセリフを言ってはみたものの、僕は過去において全くデート経験がなく、仙台のおしゃれな店なんかも全然分からない。そんな不器用な僕は、あの子の方がリードしてくれることを密かに望んでいた。

「ハリーポッターを見に行こうよ」

本来ならば、いきなり映画なんて行かないのかもしれない。あの子もデート慣れしていないのか、それとも最初に映画に行って、雰囲気を出そうとしているのか…。僕はそんな深読みなんかをして、あの子の提案に従うことにした。


「ああ面白かった」

あの子の言うように、確かにいい映画だった。ハリーは僕の心に、いつの間にか失ってしまっていた希望だとか、純粋さとかを与えてくれたわけで、マジカルワールドにすっかり僕をいざなってくれたのである。

ちょっとした雰囲気が出来上がる中、食事にでも行こうということになった。おしゃれな店に行こうかとも思ったが、いかんせん高すぎる。結局、安くてたくさん食える駅前はんだやに行くこととなった。デートにはんだや…。考えただけで笑いがこみ上げてくるが、学生さんはお金がない。

早速、ご飯と味噌汁を頼むためカウンターに立つ。一瞬、はんだやのおばちゃんが魔女に見えた。わしっ鼻でしわしわ顔ということもあろうが、おそらくはハリーを見た直後であるためだろう。僕とあの子は、魔女に盛ってもらったご飯を持って、席に着く。

「醤油ラーメンのお客様っ一番のお客様あああーっ」

「かけそばのお客様ああああああーっっ」

「はアいどんぞ」

魔女が絶えず変な「呪文」を唱えてくるので、気になってなかなか食事が進まない。あの子に至っては、甲高い声で笑っている始末だ。本来ならばデートの雰囲気ぶち壊しという事になるのだろうが、これはこれで面白い。一生懸命に働いている姿さえ、ネタになっている。本当にはんだやの魔力はすごい。

魔法の館はんだやを出ると、夜も十時になっていた。そろそろ…いや、変な妄想を抱いてはいけない。僕は心身共に健全なボーイだ。ありえない。あんなことやそんなこと、絶対にありえない。

僕のその幻想を覚ましたのは、あの子がカラオケに行こうと僕を誘った声だった。僕は歌うのは得意ではないが、他に行くべき場所も思いつかなかったので、喜んで賛成し、カラオケボックスへと入る。

二人きりの空間。二人だけの時間。もう誰にも邪魔させない。…なんて、不器用な僕には恥ずかしくて言えない。あの子は、どうやら歌となると回りが見えなくなるようで、休む間もなく大槻ケンヂの歌を歌いまくる。だが、そんな意味の分からないクロい歌を聞かされたら、ハリーの映画を見て光を取り戻した僕の心までクロくなってしまうではないか。幼い外見に似合わずパンチの効いた歌を歌うあの子。意外な一面を見て、僕は少しだけ寂しい感じがした。

あの子のリードのままどうにかカラオケも終わり、高揚した雰囲気のまま酒を飲みに行くことになった。しかし飲み屋で取られる席料がもったいないとの理由で、ダイエー近辺の、噴水のある地下駐輪場のベンチで飲むことにした。僕はアサヒスーパードライ、そしてあの子はスーパーチューハイ。ベンチで寝ているホームレスを目前に控えつつ、缶と缶で乾杯した。

お互いに無言のまま、ゆっくりと酒を飲み干す。もう少しベンチに座っていたかったのだが、僕はトイレに行くために立ち上がる。そしてあの子も立ちあがり、僕にこう言ったんだ。

「俺はトイレまで行くのだるいから、立ちションで済ましてくるよ」

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