たった2人の深夜マラソン とってもさみしい15km
仙台の風も身にしみる、またこの季節になった。秋の風物詩、深夜マラソンの時期だ。毎年数百人もの東北大生が思い思いの姿で真夜中の仙台をひた走る。その様は、正に百鬼夜行。今年はどんな格好で走ろうか…。えっ!何だって?中止? 321号
主催の応援団の人員不足か、時代の流れなのか、はたまた何者かの陰謀なのか、今回の大会は中止に追い込まれてしまったそうな。残念。
永遠なれ、深夜マラソン。今年は俺がコース(※)を巡り、在りし日のお前を追悼しよう。伝統の灯火は消さない。
だからといって、一人で走るのは寂しい。工学部体育館前に立つ俺を待ち受けるものは何もない。今年は、日ごろ鍛えた健脚を競う者もいない。奇妙奇天烈、摩訶不思議な仮装で己の存在を誇示する者もいない。あるのは満天の星空、冷えた空気、夜の静寂、馬。
…馬?
「俺も走るっすよ」馬の被り物をした深夜マラソン未経験の一年部員のTだ。どうでもいいがその変な被り物をどうにかしてほしい。こいつと走るのか…。
しかし、こんな奴に負けてはいられない。俺も去年はマージャン牌を模した段ボール箱を被り完走した馬鹿者だ。血が、あの時の血が騒ぐ。それではと俺も原付メットを被り、怪しげな学生服を身に付け、エセジョッキーに変装完了。右手には懐中電灯を、左手に鞭を。この変な馬を鞭打って、深夜マラソンへの生贄に捧ぐ。行くぞ、スタートだ!
意気揚々と走る俺たちに、すれ違う人々の冷ややかな視線が刺さる。そうだろう。夜中にこんな連中と会ったら妖怪や物の怪の類と勘違いする。それでも俺らは負けない。今までの大会ではこんな視線は無視してきたじゃないか?冷たい目すらも明日への糧に、今宵も変態が夜を行く。
俺たちは快調に飛ばし、地獄坂に至る。ここは去年の大会で段ボールを脱ぎ捨て地面に叩き付けた、俺にとっていわく付きの呪われたアウターゾーン。さすが鬼が棲まう坂である。過去の深夜マラソンで何人のランナーを食い物にしたのだろう。二人とも歩みが止まる。大丈夫かと馬に聞くが、「走っている間に髭が伸びた」と、意味不明のことを口走る。命に別状はないだろうから聞き流す。どうやら奴も相当参っているらしい。
坂を登りきり再びスタート地点が見えてきた。だが馬が走るのを嫌がる。まだ半分です。仕方がないので、鞭を入れ無理やり走らせる。二周目に突入。
だが俺も疲れている。頭のネジの数本は既に彼方に飛び去り、鞭を握る手にも力が入らない。二周目の記憶など犬の肉球くらい、どうなってもいい。薄れた記憶で足を引きずりつつ、誰も待つことのないゴールにへたり込む。
メットで蒸れた頭が風にあたり涼しい。やはり深夜マラソン、お前は偉大だ。苦しさの先に仲間と分かち合う満足感がある。だが名も知らぬ人たちと肩を組んだ去年の感動はもうここにはなかった。
だからお願いがあるんだ。来年は復活させて皆で走ろう。
(※) 工学部体育館前をスタートし、扇坂、大橋、仲ノ瀬橋、地獄坂を経て工学部に戻るコースを二周、全長十五キロメートルを駆ける。
