たべるたべるゴハン 今日から俺は
発展した外食産業のおかげで、自炊をしないでも一人暮らしが成り立つ。学食やコンビニ、惣菜屋など、学生の味方は多く、ほとんど炊事をしないで一人暮らししている学生も珍しくない。彼らが料理を作ったら一体どうなるのか。お祝い号8面・大学
全く調理をしないで一年間食いつないできた三人の新聞部員が、大学入学後、十一ヵ月にして初めて包丁を握った。挑戦者を以下に紹介する。
文学部オーノ。朝はシリアルを摂り、夕食は米を自分で炊いて、おかずはスーパーの惣菜やレトルト食品に頼る。
文学部まもん。下宿しているため、朝晩食事が出される。自炊を発想する余地もなく、一年間を過ごしてきた。
工学部Kスケ。水仕事を嫌い、自宅では食器を使わない。外食に依存し、朝昼欠食することも珍しくない。
午後六時半、会場に集合。さっそく、くじを引いて各々担当の料理を決める。Kスケは餃子、オーノはサバとカブの味噌煮、まもんは白身魚のフライとポテトサラダ。
Kスケは「皮はあるのか。まさか、皮からつくるのか?」と慌てるが、餃子の皮を渡されて胸をなで下ろす。おまけに、包装袋の裏面にはレシピを発見。余裕の表情を見せる。
六時四十五分、一斉に調理に取り掛かる。Kスケはキャベツをみじん切りにする。レシピに記載されている重量がどれくらいの分量なのかわからず、勘で量る。オーノはサバをおろし、身をめった切りにしていく。まもんは米をといだ後、ジャガイモをゆでる。フライの魚は、既に開いてあるものを使用。何も考えず、頭も落とさずに衣のタネをつける。小麦粉、卵、そしてパン粉…がないので代わりに砕いた麩(ふ)の順につけて、フライの準備を完了する。
七時を回ったあたりでサバを切り尽くしたオーノは、ようやくだし取りに取り掛かる。削り節の包装の説明に目を通す。「鍋に昆布と削り節を入れて十五分水に浸し、…」ここに来てオーノはサバとの格闘に注意を奪われて手順を間違えていたことに気がつく。指示に従っているほど気が長くなく、即行の点火。「待ってられるか。むしろ普通だ」と開き直る。それからカブの皮をむいて、くし型に切る。
Kスケはキャベツに続いてショウガ、ニンニク、そしてなぜかニンジンもみじん切りにする。切り終えてからレシピを読み直し、ニンジンはニンニクを早とちりした勘違いだったことに気づく。開き直り、切った野菜を全てそのまま鍋に投げ込み、豚挽き肉と塩を加えてこねる。
まもんはジャガイモを鍋から引き上げてボウルの中でつぶす。ここでハプニングが発生。まもんが流し台で丹精こめてジャガイモを潰している上でKスケが手を洗う。ボウルに石けん水が流れ込み、ジャガイモが台無しに。努力が水の泡となったまもんはポテトサラダの制作を放棄。もっとも、胡瓜とハムが無かったので、もともと完成するあてはなかった。
七時二十分、だしができる。オーノは鍋にだしを煮立ててサバとカブを投入。ひたすら煮る。酒と味噌を加え、ショウガとネギ、それにエノキ茸をぶち込み、さらに煮る。Kスケは餃子の皮に具を包む作業を始める。具に似つかわず体裁がいい。タネが大量に余ったため、卵と麩を加えてハンバーグのタネにする。
八時二十分、まもんはフライを揚げる。というか、油をケチらされてフライパンで焼く。そのためか、ムニエルのようになる。続いてKスケが餃子を焼く。蒸し焼きにしようと入れた水が多すぎて餃子が水浸しになる。ついでにハンバーグも焼く。Kスケが餃子とハンバーグを焼いている間に、まもんがキャベツの千切りをつくる。最後に、オーノがフライのつなぎに用いた卵の残りを使って卵焼きをつくる。
九時二十五分、全て完成。開始から二時間半以上もかかった。
サバの味噌煮は、具が原型をとどめておらず、外見は悪い。しかし、よく味が染み込んでいてうまい。絶品だ。勢いで汁も残らず飲み干す。餃子は、と言うと固い。とにかく固い。味は淡白だ。それにも関わらず、なぜか箸が進む。生姜とニンニクに食欲をそそられるからなのか。ハンバーグも同様。キャベツの強い歯応えにさからってむさむさ食べる。フライは見た目が悪い。魚に麩の塊がくっついている。皆、「これはフライじゃないだろ」と異口同音に唱える。警戒しつつ口にすれば…、案の定、半生だ。食おうと思えば食えるのだが、半生だ。卵焼は、中から魚の骨が出てきて意表を突かれた。
これから一人暮らしを始める新入生の皆さんの中には既に自炊を試みている人も、全く自炊しないで学生時代を乗り切ろうと考えている人もいることだろう。いずれにしろ、臆せず無理せず、簡単なものから始めて少しずつバラエティーを増やしていくことを勧める。実家から通学する人も炊事を敬遠せずに、暇な休日などには台所に立ってみてはいかがだろうか。
