東北大学新聞:

理学研究科鈴木厚人教授 「ニュートリノ振動」の予兆発見

昨年十二月、本学理学研究科附属ニュートリノ科学研究センターの鈴木厚人教授が、素粒子の一種である反電子型ニュートリノに、質量があることの証拠になる「ニュートリノ振動」の予兆を発見した。今後観測を続け、ニュートリノ振動が確かに起こっていることが立証されれば、物理学における三十年来の難問であった「太陽ニュートリノ問題」が解決される。324号

今回の発見は、ニュートリノ科学研究センターが岐阜県神岡町の神岡鉱山地下に昨年設置した観測施設「カムランド」によってなされた。カムランドは、周辺に多数立地する原子力発電所で発生した、反電子型ニュートリノと呼ばれる素粒子を検出する。

今回のカムランドによる観測は、昨年三月から十月にかけて、百四十五日間行われた。この期間に原子炉で発生し、カムランドに到達すると予想された反電子型ニュートリノが八十七個であるのに対し、実際には五十四個しか検出されなかった。このことから、反電子型ニュートリノが原子炉からカムランドに飛来する過程で、カムランドでは検出されにくい種類のニュートリノに変化したことが考えられた。

鈴木教授らは、この結果は、反電子型ニュートリノが「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を起こしていることに由来する可能性が高いと分析する。

ニュートリノ振動とは、全部で三種類(反粒子(※)を含めれば六種類)存在するニュートリノの間で起こる、お互いに種類が変化しあう現象である。例えば反電子型ニュートリノは、ニュートリノ振動によってミュー型やタウ型のニュートリノに変化する。

このニュートリノ振動は、ニュートリノに質量があることによって起こるものだと考えられている。しかし、今回の観測ではデータ数が少なく、ニュートリノ振動が原因で反電子型ニュートリノの飛来数が減少したとは断定できないという。

より多くのデータを得るために現在も観測は続けられている。この観測は今後一年程度かけて行われ、反電子型ニュートリノがニュートリノ振動を起こしているか否かの判断材料を集める。

東京大学が同鉱山に設置したスーパーカミオカンデでは、既にミュー型ニュートリノのニュートリノ振動を確認し、ミュー型ニュートリノに質量があることを確認している。しかし、ミュー型以外のニュートリノでニュートリノ振動が起きている可能性があることが確認されたのは、今回の鈴木教授らの観測が世界初である。

反電子型ニュートリノでニュートリノ振動が起きていることが確かめられ、ニュートリノの質量が確認されれば、残ったミュー型ニュートリノの質量も計算で求められる。さらに、太陽ニュートリノ問題が解決される。

太陽ニュートリノ問題は、太陽内部で発生したニュートリノが、なぜ地球に到達するまでに半減してしまうのか、という問題である。この問題の発見者は、昨年のノーベル物理学賞受賞者である米ペンシルバニア大のレイモンド・デービス名誉教授である。しかし、その原因については、問題発見から三十年以上経つ現在でも解明されてはいない。

太陽で発生するニュートリノは、原子炉で発生するニュートリノの反粒子である電子型ニュートリノである。反電子型ニュートリノがニュートリノ振動を起こしていれば、その反粒子である電子型ニュートリノもニュートリノ振動を起こしていることになる。

鈴木教授らの観測で、反電子型ニュートリノのニュートリノ振動が確かめられれば、太陽から飛んでくる電子型ニュートリノが地球に到達するまでに異なったニュートリノに変化し、観測できなくなったと判断できる。これによって、太陽ニュートリノ問題は解決に向かう。

今後カムランドでは、地球内部に存在するウランやトリウムといった放射性元素の存在量を調査するなど、その検出能力の高さを武器に、他の検出器には真似のできない独創的な分野の研究を進めていくことになるという。

※反粒子

ある素粒子について、電荷など電気的性質のみが異なり、従う物理法則は同じである粒子。すべての素粒子は反粒子をもつ。例えばマイナスの電荷を持つ電子に対してはプラスの電荷を持つ陽電子がある。


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