理学部小谷教授が猿橋賞を受賞
第25回猿橋賞(「女性科学者に明るい未来をの会」主催)を、本学理学研究科数学専攻多様体論講座の小谷元子教授が受賞した。(343号)
猿橋賞とは年に1人、自然科学の分野で顕著な業績を挙げた女性科学者に贈られるものである。賞の創設者である猿橋勝子氏は、初め私立大学に入って研究をし、卒業後は気象庁に勤めた。その2年後に東京帝国大学が女子学生の受け入れを始めたことを受けて再入学、地球科学の分野で活躍した。女性で初めて日本学術会議会員となった。
猿橋氏が生き抜いた時代は今よりもはるかに女性科学者が少なく、女性に科学は向かないとされていた。81年に退職金をもとに猿橋賞を創設したのは、女性科学者の地位向上と研究支援のためだった。
今回小谷教授が受賞した研究は「離散幾何解析による結晶格子の研究」。われわれが図形と聞いてふつう思い浮かべるようなひとつの線によって閉じられた図形を、連続性のある図形という。逆に連続性がなく、しかし周期的な図形のことを離散幾何という。離散幾何の対称性を調べる研究である離散群は、その難しさからあまり研究が進んでおらず、まだ分かっていない事が多い。
この研究では、三角形のような基本図形を縦横に無限に平行移動していくことで構成される、結晶格子という図形の性質を分析するために、ランダムウォークという手法を用いた。結晶格子において、ある1点から隣接する1点に移動する際、前歴の道筋とは関係なく、進める方向すべてから無作為に選ぶという試行を幾度も繰り返すというもので、これにより偏りのないデータが得られる。酔っ払いの歩行のように予想もつかない軌跡を描くので、酔歩と訳される。小谷教授はこの現象についても、幾何学と確率論を組み合わせることで、一定の規則があることを解明した。
猿橋賞受賞について小谷教授は、「(猿橋賞は)昔から由緒正しい賞だと知っていたので、受賞できてとても嬉しい。ただ、猿橋さんが賞に込めた社会的な意味を思うと責任の重さを感じた。今回の受賞で、頑張っている女性研究者がいるというのを知ってもらって、研究者や研究者を目指す女性の励みになったら」と話す。
「数学」という学問分野について漠然と抱かれがちな印象として、何をしているのかよく分からない、ずっと昔から研究されていて今ではほとんどが解決済み、といった誤解がある。「しかし実際は数学には、まだまだたくさんわからないことがある。化学や工学と違って時代の要請もない、何をやっても自由な学問なので、やりたいことをやればそれが成果になる」と、数学の自由さ、おもしろさを強調した。また「数学は科学の言葉を記述する学問でもある。今回の研究で確率論に新しい視点を提供できた。確率論が豊かになると数学が豊かになり、数学が豊かになると科学全体が豊かになる」という。
最近開拓されはじめた分野である離散群に興味があり、研究者になったという小谷教授。「今後は、結晶格子をより一般化した図形に関しても、同じようなことをやっていきたい」と意欲を見せていた。
