バナナの皮はすべるのか?フルーツバスケットで実験
私は差し迫った予習を後回しにし、友人はまさに行なわれている授業をさぼって、マリオカートに興じていた。友人はあろうことか、障害物たるバナナを大量にせしめてこれらをコース上に撒布したのである。「おいお前! そんな悪事が許されることがあろうか、いやない」などと激昂しつつも後を追う私。これらを避けるのは空を飛ぶくらい、初心者の私には困難だった。私のカートは景気よくバナナ地帯に突っ込んだ。マリオはアワワワワワと馬鹿に明るい奇声を発し、滑ったカートは愉快にぐるぐる回転。怒り狂う私。ニヤける友人。(352号)
結局レースは友人1位、私は最下位で幕を閉じた。私は未熟な腕を差し置いてこうわめく。「お前、バナナ置きすぎ! てか、バナナって本当にあんなに滑るの? バナナじゃなくてさ、リンゴとかでもいいじゃん! そうだよな、マリオ?」友人あきれて「知らんよ、ゲームの中なんだから」。「じゃあ現実界ではバナナは滑らないものだとするとマリオは実際は滑ってはいないことになり、よって私は断じてこれ最下位ではないのだ」。そんな支離滅裂な論を展開する私に、さすがの友人も本気になって「じゃあお前、バナナが滑ったら負けだからな!」後から考えると友人の反論もたいそうまずいものだったのだが、そんなわけで私と友人はバナナが滑るのか実験を行うことに相成ったのである。
新聞部の連中に声をかけてみると、やはり同じ疑問を抱いた人はいるもので、数人の有志が集まった。さてどうやって実験するかの案を出しあうと、ほかの果物も滑るのかをやってみようという声が上がり、じゃあフルーツバスケットはどうだろう、ということになった。
ご存じと思うが、参加者より1つだけ少ない数の椅子を内側を向けて円形に配置、それを奪いあう一種の椅子取りゲームである。その円のなかにバナナなど滑るかどうか試したい果物の皮を置き、椅子めがけてダッシュする人が踏みつけるのを待つのだ。ニヤける私。滑ったら負けだとかって、もう完全に忘れていた。
某月某日、放課後の教室には10名弱の有志が集まっていた。椅子を丸く配置、その中に持ち寄られた果物の皮がいい感じに配置される。とはいえみんな貧乏学生、試したい果物の皮が各自持参となると、高い志に反して財布の紐は固い。個人的にはメロンなんて試したかったのだが、結局集まった果物はバナナのほか、リンゴ、キウイのみとなった。うーん……いや、それでもいいじゃないの。本筋はバナナである。気を取り直して実験開始といこう、と、ついにフルーツバスケットは開始されたのである。
「靴を履いている人!」からゲームは始まった。該当する人は立って、別の椅子に座らねばならない。たまたま参加者のすべてが靴を履いていたので、全員が別の椅子めざしてダッシュ。ここまで入り乱れたのでは誰かが皮を踏むだろう、これでは実験終了は早いな、と思ったが、あぶれた1人を除いて皆が着席したときに皮を見やると、どれも元の形の威厳を保ったまま床に落ち着いていた。残念。
「重ね着の人」「眼鏡」「西日本出身の人(けっこう多い)」など、幾度も椅子取りを経たが、あろうことか誰一人とて皮を踏んでくれる人がいない。みな慎重すぎるのか。そらそうだろう、滑るかもしれんのだもの。でも優しい人は踏んでくれるよ、と根拠のない思い込みで自分を勇気づけ、私は次の椅子取りに望んだ。「黒の靴下の人!」私は立って真正面の椅子へ向かう。と……急に床が一メートル後ろに引っぱられたかのように私はバランスを崩し、次の瞬間には床に手を突いていた。なんと、バナーナの皮を踏んづけてしまったのである。月がこうこうと光っていた。バナナ色の満月だった。おお、バナナよ、お前は滑る果物だったのか! いまこの瞬間、私はこのことを理解したよ! 友人が私を助け起こしてくれた。爆笑の渦に囲まれていたが、私はちょっと感動していたのである。ちょっとだけ。
ここでバナナの皮は円内より除去され、残るリンゴとキウイもほどなくして踏んづけられる運命をまっとうした。彼ら2人は、滑るどころかつまづく感じだった、そう経験者は語っている。
かくして、フルーツバスケットは円満に終局を迎えた。座り損ねた回数の一番少なかったのは、悔しいことに事の発端となった友人だった。「賞品あんの?」「ありますとも!」まさかこんな実験に勝って賞品があるとは思っていない友人は喜び勇んで言った。「で、なんなの?」私は「フルーツつめ合わせ」と答え、現物を見せた。バスケットに入ったバナナ、リンゴ、キウイ。「要らねー!」
