東北大学新聞:

松島自転車放浪記

春は出会いの季節である。新たな出会いを祝福するかのように桜の花は咲き誇り、人々は期待と不安を胸に新生活をスタートする。今年も入学式を間近に控え川内キャンパスにちらほらと新入生たちが現れ始めたころ、我らが新聞部もまたまだ見ぬ新入生たちとの出会いに胸をときめかせていた。

しかし、である。ふと視線を自らに向けてみれば、そこにいるのは一年間の学生生活の間にすっかりデカダンスに染まってしまった自分だった。・・・こんな事で、初々しい新入生たちをお迎えできるだろうか!?急に不安になった私は、若さをとり戻すべく自転車の旅に出ることにした。
旅の目的地は、松島に決まった。適度な距離ならどこでも良かったが、観光地として有名な松島なら旅のモチベーションも上がるだろうと思って決めた。私は旅の当日寝坊し、友人の電話で目覚めた。まじめな友人のおかげで旅は始まった。
旅がしてみたいと言って参加した部員Fと仙台駅で合流し、ひとまず国道45号線沿いを走ることにした。松島と仙台は45号線でつながっているので、45号線を離れない限り確実に松島に着くことができる。この記事に冒険的要素を期待していた人には申し訳ないが、何の苦労もなく着いちゃいそうだ。また、国道なので交通量も多く、想像していたほどフレッシュでない。時に排気ガスに咳き込みながらも、一行は自転車で宮城野区を越え、多賀城に入り、さらに北東を目指した。
しかし、道程も半分を超え塩釜まで来ると景色に緑が増え、穏やかな風が心地いい和やかな旅となった。微かな潮の香りが漂い農家らしき家々が並ぶ日本の原風景は、仙台の雑踏で生きる私にはこの上ない癒しとなった。次第に道路は勾配を増し、緑の木々が生い茂る山々からは名も知らぬ鳥の鳴き声が聞こえた。何度かトンネルを抜けると、いつの間にか松島の目前まで来ていた。市街地から離れた位置に展望台があるらしく、ひとまずそちらへ向かうことにした。
松島展望台は、その響きから白い塔や100円で使える望遠鏡が置いてあるのを想像したが、実物はその斜め上を行くものだった。それはまさに台。壁もなければ柵もない、ただのコンクリートの台だった。私は試しにその上に立ってみたが、眼下には無数の木々が並び、美しさもさることながら落ちそうでちょっと怖かった。
展望台からはわずか10分ほどで松島の中心部に着いた。仙台駅から25キロ、時間にして約2時間半の自転車旅行は涼しかったせいか思いのほか快適だった。松島駅に自転車を止め、さっそく観光を始める。松島には瑞巌寺を筆頭に五堂と呼ばれる五つの寺があり、あるいは遊覧船に水族館と観光スポットには事欠かない。しかし、走り続けて小腹が空き始めていた私達は何より先に海の幸を楽しむことにした。多すぎるくらいの飲食店から一番安そうな店を選んで、ラーメンを食べた。私はフカヒレラーメン、Fはマグロジャージャー麺でどちらも880円。味はやはり海の幸を売りにしている松島だけあって、価格に十分見合った味だった。しかし自転車の旅なのだから金は掛からないだろうと踏んでいたのが災いし、この時点で財布の残りが僅か500円ほどになってしまった。
とりあえず空腹を満たし、今度は文化的な方面への興味が沸いたので、五堂を見てまわった。しかし、瑞巌寺は700円の入場料がかかり、また他の寺へ架かる橋は縁結びの橋らしく同性Fと渡るわけにも行かず、大して見て回ることができなかった。遊覧船も水族館も当然お金がかかるので諦め、最後にお土産屋を覗いてまわることにした。
お土産屋には、牛タンから笹かま、かもめのたまごにずんだもちと、宮城の名産を一通りカバーしたラインアップが揃っていた。逆に言えばどれも見たことのある商品ばかりで、最初仙台育ちの私には若干退屈に思えた。しかし、一つの商品に私の目は釘付けになった。それは、カキクリームコロッケバーガー。カニじゃあない。カキだ。海のミルク、カキである。しかもバーガー。この欲張りすぎるネーミングに惹かれ、私は最後に残った財布の金をこれに託すことを決意した。350円をおばちゃんに渡し、そわそわしながら商品を受け取る。おおっ、思ったより見た目も様になってるぞ!?味の方も若干カキの味が弱いながら、後味にはカニとは違うカキの旨みがあって美味しい。最後の最後にささやかな当たりくじを引いた気分になり、私達は松島を後にした。

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