東北大学新聞:

分子の振動を単一分子で検出

本学多元物質科学研究所の米田忠弘教授と岡林則夫研究員らのグループは、分子
の振動を単一の分子で検出する技術を開発した。この研究は科学技術振興機構基
礎研究事業の一環として平成16年より進められいたもの。


分子や原子など極微小の対象を観察するには電子顕微鏡が用いられるが、有機分
子等は高エネルギーの電子を照射するとすぐ分解・散乱してしまう。そのため、
電子顕微鏡の一種である走査型トンネル顕微鏡が用いられる。走査型トンネル顕
微鏡の探針と対象の分子の距離をごく微小にすると、量子力学的効果によって接
触していない原子間にトンネル電流が流れる。トンネル電流は原子の大きさより
も小さな範囲に集中する。これにより原子レベルでの分析が可能である。
トンネル電流を流すと分子内部の原子の結合が伸縮したり、結合角が変化したり
して振動する。トンネル電流が分子の振動を引き起こした際に電子が失ったエネ
ルギーから、分子の振動の周波数を調べることができる。それによって分子の構
造を分析する手法を振動分光という。従来の技術では10億個以上の分子を集積し
なければ十分な信号が得られず、さらに得られるのも多数の分子の平均的なデー
タであった。
しかしこの技術では、1個の分子にトンネル電流を流し、装置の温度を極低温に
し、電子が失ったエネルギーをより高い精度で観測。10億個の分子を集めたのと
同程度の信号を得ることに成功した。
比較的低エネルギーで分析を行うため、分子に損傷を与えにくい。そのため、傷
つきやすい有機分子の分析や、生体分子の一部分を選択的に分析することへの応
用が期待される。また近年研究が進められている単一分子素子(1つの分子から
成る装置)の内部構造を分析し、単一分子素子の標準となるデータを作成するこ
とができるようになった。これにより意図したように素子が作られているか調べ
ることができるようになると期待される。

Copyright (C) 東北大学新聞