炭素超電導のメカニズム解明
本学理学研究科の高橋隆教授と佐藤宇史助教らの研究グループは黒鉛が超電導を起こすメカニズムを解明した。
超伝導は金属などが極低温において電気抵抗がゼロになる現象のことである。
鉛筆の芯などに用いられる黒鉛は炭素原子が蜂の巣状にいくつも重なった層構造をしている。この層間は分子間力という弱い力で結びついており、層と層の間には隙間がある。この層間にカリウムやリチウムなどを挿入し冷却すると2Kほどで超伝導を起こすことが40年前に発見された。その後、より高い温度で超伝導を起こそうという研究や、超伝導のメカニズムを解明しようという研究が盛んに行われた。この当時、日仏米の間で異なった超伝導モデルが提唱されていた。炭素の電子軌道にはパイ軌道とシグマ軌道があり、それぞれの軌道にある電子をパイ電子、シグマ電子という。シグマ電子は炭素と炭素を結びつける働きをしていて、このうちパイ電子が超電導に寄与しているというのが仏米の研究者が提唱した超伝導モデルであった。研究が始まった当時はこの理論が主流であった。一方、29年前に日本の研究者がパイ電子ではなく、黒鉛の層間に挿入された原子から離れた電子が超伝導に関わるという超伝導モデルを提唱していた。しかし、その後黒鉛超伝導体の研究自体が下火になっていったため、研究は進まず超伝導メカニズムは謎のままだった。
最近になって、層間にカルシウムを挿入することで飛躍的に超伝導を起こす温度が高まることが発見され、再び黒鉛超伝導体の研究が盛んに行われるようになった。高橋教授らの研究グループは、光電効果を利用して物質から放出された電子のエネルギー状態とその個数を測定することができる光電子分光装置を用いて黒鉛のエネルギー状態を測定し、層間電子状態が超伝導に関与していることを確認した。紫外線をあてた時、光電効果で飛び出してくる電子はシグマ電子、パイ電子、層間電子でありそれぞれにエネルギーの状態が違う。また物質が超伝導を起こす時、エネルギー状態とそのエネルギー状態にある電子の個数が大きく変化する。このため光電子分光装置により、超伝導を起こす前と後を比べることでどの電子が超伝導に関与しているかを知ることができる。しかし、パイ電子と層間電子のエネルギー状態とその状態の電子の個数との間にはそれほど大きな差がないため、従来の装置ではその違いを判別することができず、どちらが超伝導に関わっているか判別できなかった。研究グループは世界最高性能のエネルギー分解能を持つ装置を作ることでこの問題を解決した。
層間電子状態についてはまだよく分かっていないことが多いが、今回の研究結果に基づいて挿入原子と炭素原子との間の関係など研究が大きく進むことになる。また今回用いられた光電子分光装置を改良し高分解能化をさらに進めることによって層間電子の性質や黒鉛以外の超伝導体のメカニズムの解明されていくことが期待される。
