有機分子の生成を実験で証明 生命の起源に新たな仮説
本学大学院理学研究科の掛川武准教授らと独立行政法人物質・材料研究機構の中沢弘基名誉フェローらは共同で、生命の起源とされる有機分子は隕石の衝突による海洋爆撃によって生成されることを実験により証明した。
1953年、アメリカの科学者ミラーは当時の地球の大気モデルをメタン、アンモニア、水を含む気体中で雷をモデルにして放電を行う事によりアミノ酸などの有機分子の生成の仮説を立てた。しかし1970年代から21世紀初頭にかけて急速に科学技術が発達した事により、当時の地球の表面が非常に高温であり、メタンやアンモニアは酸化されて窒素や二酸化炭素などになることが分かった。この大気組成だと放電しても有機分子の生成は確認できず、ミラーの仮説の前提が崩れ、再び有機分子の起源は謎となった。
それに代わる説として、海底の温泉や火山ガスの中で有機分子誕生説や、宇宙からの隕石の中に生命が存在していたという説がでた。ただし二酸化炭素などの大気から有機分子が誕生するためには、二酸化炭素を還元する必要があり、そのためには還元させる物質か、それに代わる大きなエネルギーが必要となる。しかしどちらとも当時の地球には存在しない。
今回は40年前に頻繁に起こっていた隕石の衝突のエネルギーによって、生命は誕生するのかの実験である。この実験は2006年に同研究グループの中沢氏が提唱した「有機分子ビックバン説」に由来するもの。窒素大気と海水に隕石が衝突する衝撃を模擬したものである。地球で回収される主な隕石は20%程度の鉄属金属(鉄、コバルト、ニッケル)およびその硫化物と1%の固体炭素が含まれていて、衝突の際のエネルギーで海洋の水と隕石が化学反応して有機分子になると考えられた。
小さな3センチ四方の円筒カプセルに鉄粉および固体炭素、水、窒素ガスを封入し、そのカプセルにステンレス製の飛翔体を秒速1キロメートルで衝突させ、生成物を検出する実験を行った。その結果、グリシンなどのアミノ酸、酢酸などのカルボン酸やアミンの生成が確認できた。
この研究の成功によって、ミラーの仮説に代わる、日本発の新しい有機分子起源のシナリオが生まれた。今後、さらに詳細な衝撃実験とその生成物の分析によって、有機分子の起源が明確にされ、有機分子のサバイバルやタンパク質などの高分子化への変化の仕組みが明確になっていくと考えられる。今回の実験は生命の起源の研究が地球史に根拠を置いて、大きく進展する契機となったといえる。
