総長論文問題 期限までにナノ学会に回答せず
井上総長らの論文に再現性がないと指摘された問題で、ナノ学会が本学2教授の質問状に回答するよう、井上総長らに電子メールで要請したのに対し、延長された期限までに回答がないことが分かった。
「2教授らの質問に答える必要がない」というのが井上総長らの回答だと、ナノ学会編集委員会は見なしている。2教授らを中心とする「井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会」(以下、要望する会)は、「疑義を晴らすせっかくの機会をふいにしたのは極めて遺憾で、残念に思う」としている。
問題は、井上明久氏(東北大学総長)と張濤氏(北京航空航天大学教授)らが90年代に材料学の学術誌(英文)「Materials Transactions」で発表した複数の論文に再現性がないとする匿名の告発で浮上。大学の対応委員会が07年12月末、「事実無根で告発は悪意に基づくと判断せざるをえない」とする報告書を公表し、08年初めにも追加で資料を出した。
これに疑問を持った東北大の大村泉教授(経済学研究科)と高橋禮二郎客員教授(国際文化研究科)が昨年9月から今年1月20日にかけて、この学術誌を共同刊行している日本金属学会やナノ学会など10団体に質問書を提出。学術誌の読者が著者に直接質問できる「Letters to the Editor」の制度も利用し、井上氏自身の説明を学会誌に掲載するよう求めていた。
また多元物質科学研究所の教授11人も、「井上氏の論文そのものに疑義があるわけではない」とした上で、全ての大学教職員が「説明責任を果した」と認識できるような対応を求める要望書を大学へ昨年7月、要望する会とは別に提出した。
ナノ学会は「言いがかりや誹謗中傷でない限り、論文著者は質問に答える責任があると学会として判断した」としており、井上氏・張氏に2月28日までに回答を要請していた。期限を過ぎても回答がないため、3月10日、回答期限を3月25日まで延長すると再び連絡。しかし、3月30日の時点でも結局両氏から回答はなかった。「先の見解をもって、手続きを終了した」とナノ学会は判断した。ナノ学会の会長は川添良幸東北大教授、編集委員長は尾上順東京工業大准教授。
日本金属学会は2教授の質問は「掲載不適当」として掲載を見送り、「論文の説明責任は著者にあり、調査結果の説明責任は調査機関にある」と回答した。要望する会は「学会の判定は論文の誤訳が原因ではないか」と見ている。日本金属学会の会長は、森正彦名古屋大学教授、編集委員長は原信義東北大教授。
(嶋田一郎名誉教授より)
学問の自由は、発表でき、それを批判できる自由を含む。研究者はできるだけ一般の人にも分かるよう説明する責任がある。論文で誤りがあったなら、訂正して謝ればよい。前発表した論文を訂正する論文もある。訂正したからといって、研究者の価値が下がるわけではない。今回、学内の教授らが別の視点から報告書に疑問を呈し、説明する場が用意されたのに、無視しているのは良くない。話し合いが必要だ。大学教職員が自由に発言できる環境になれば、この問題を良い形で和解ができるのではないか。
(監事要望書)
本学の2監事が「井上総長らに係る研究不正の疑義に合理的根拠はないことが報告書で明らかになったにもかかわらず、一部の教員が抗議活動を行っている。本学の名誉や信用が毀損する事態が生じており、当該教員らに事情聴取を行う必要がある」とする要望書を大学へ提出した。
要望する会は「私たちは抗議しているのではなく、研究者倫理に従い合理的説明と疑義の解消を要望しているに過ぎない。学術上の問題は学術的に処理するしかないという考えから、問題点を提示しているだけ」と話している。
