そうだ、弁当つくろう――東北大学新聞弁当
新学期が始まる前のことだ。晴れて後期セメスターを終えた私は、実家に帰って冬休みとも春休みとも呼べぬ長期休暇を堪能することにした。
昼過ぎに仙台駅から東北新幹線にのり、東京経由で東海道新幹線に乗り換える。新幹線を使っても、静岡県にある実家まではそこそこの長旅になる。新幹線が横浜駅を通過するころ、夕飯の時間になった。この時期に休みを取れるのは大学生だけだ。人口密度の低い新幹線のなかで、私は三席分の座席を丸ごと占領していた。重い手荷物は隣の座席に放りだして、リュックサックの底からお弁当を取り出した。今日の夕飯は仙台駅で買った網焼き牛タン弁当。仙台に住む東北大生なら誰でも知っている仙台名物だ。完食して暫くすると、ようやく静岡県についた。
駅前から見える壮大な富士山。そして麓には茶畑が広がる。全国生産量一位を誇る我が県自慢の特産品だ。長旅で喉も渇いたので、久しぶりに静岡のおいしいお茶でも飲もう。私は売店に立ち寄った。お茶を手に取ろうとした時、ふと駅弁が目に入る。そこには桜えびめしが販売されていた。桜えびもまた、静岡県の特産物の一つだ。仙台の牛タン弁当、静岡県の桜えびめし。
その時ふと、素晴らしいアイデアが思い浮かんだ。私も駅弁を作って販売しよう。実際に販売されている駅弁は、ほとんどが地方の特産品を詰め込むという貧弱な発想で作られたものだ。このくらい、私にだって作れる。むしろ、鉄道会社が作れるのに、私が作れないはずがない。幸い、現在川内キャンパスでは工事を行っており、数年後には地下鉄が開通予定だ。きっとこれは何かの縁。将来、地下鉄が開通した暁には、駅弁として販売してもらおう。そして大儲けだ。
さて、駅弁を作るために最も大切なものは何だろう。答えは弁当の名前である。名前にインパクトが無ければ売れるものも売れない。弁当を作る時にはまず名前を決め、その名にふさわしいイメージを中身で具現化することが重要だ。
当初、川内キャンパスでの地下鉄の駅で販売するために「川内弁当」という名前を考案したが、これではいまいちインパクトが足りない。次に浮かんだのが「東北大学弁当」。しかし、これでは折角私が作った弁当なのに、東北大学が販売している弁当のようで何だか癪にさわる。そこで、「東北大学新聞弁当」という名前に決めた。これなら報道部の弁当ということになるので、販売することになってもさほど悔しくない。強いインパクトが心に響く、素晴らしいネーミングだ。
ところが、その後に思わぬ壁に当たった。東北大学新聞弁当という名にふさわしい弁当の中身が思いつかないのだ。報道部が野菜の一つでも栽培していればよいのだが、報道部では栽培はおろか、狩りや漁もしていない。無機質な部室にあるのはパソコンや印刷機ばかりで、食糧といえば床に転がっているカップ麺くらいだ。このままでは東北大学新聞弁当という名前ばかりが独り歩きしてしまう。これは忌々しき事態だ。
どうすればその名に相応しい弁当が作れるのだろう。素晴らしいインスピレーションは日常の些細なことがヒントになって生まれるらしい。そんな話を聞いたことがあったので、深く考え込まずにふらふらと部室で昼休みを過ごしつつ、弁当の中身のヒントを日常生活の中に求めることにした。
数日後、ある晴れた日の昼休み。私は弁当のことはすっかり忘れて、部室でごろごろしていた。すると、ふと気付いたことがあった。部屋に入ってくる部員たちはみな手作りのお弁当をもっているではないか。お弁当づくりは現在、部内のちょっとしたブームになっているらしい。駅弁を考案しているうちに弁当作りがブームになるとは。きっとこれは偶然ではない。折角のお弁当ブームなので、みんなにも東北大学新聞弁当の中身を考えてもらおう。一週間の猶予を与え、みんなで発表会をすることにした。
翌週の部会。みんなで部室に集まり、弁当箱を開けた。集まったのは6人。Cから順に東北大学新聞らしい点を発表してもらうことにした。Cがつくったのは報道部のアドレス「ton-press」にちなんで、スパゲッティとパンをそれぞれぎゅうぎゅうに圧縮したプレスな弁当。報道部そのものではなく、英語に変えて駅弁を作り上げた。素晴らしい着眼点だ。弁当を作ってこなかった部員にも分けていたが、好評だった。次にKの作ってきたのり巻きのお弁当。Kは報道部を一言で表すと「カオス」だと言い切り、そのカオスっぷりを弁当で表現したらしい。のりからちょっとはみ出した具はバナナやカレーのように見える。部外者が見たら訳が分からないだろう。これが報道部だ(K談)。次は私の番だ。報道部で取材をして記事を書くためには根気が不可欠だ。そこで、粘り強く記事を書く精神を表現するために、納豆を取り入れた。蓋を開けると特有の香りがする。そして、おかずには新聞に包んだふかしイモ。新聞というのはもちろん、余った東北大学新聞だ。納豆とイモという見慣れぬ組み合わせには、新聞を作る上で必要な、斬新な発想力も表現している。しかし、何故か誰も食べようとしなかった。さて、次はYの作ったちらし寿司。普通においしかった。Nが作ったのはサンドイッチで、皆に分けていて高い評価を得ていた。テーマの東北大学新聞は反映されていないが、私も食べておいしかったので有りだ。Aはご飯とのりで新聞を作っていた。繊細な配置から苦労が伺える。そして最後に、Tは新聞が白と黒の2色で構成されているところに着目して、白と黒だけで固めた弁当を作ってきた。メインディッシュは惜しみなく使ったひじきだ。新聞の特徴がよく現れている。こうして楽しい食事会が開催された。各自の持つ報道部のイメージがそのまま弁当になったようだ。やはり、駅弁作りはイメージの具現化である。この食事会を通して、報道部の新たな一面が目に見える形で現れた。この食事会で得たイメージを参考にして、地下鉄が開通した暁に東北大学新聞弁当を販売されるかどうかは、開通まで私のモチベーションが維持されるかに掛かっている。地下鉄開通の後に駅で販売されているのを見かけたら是非ご購入下さい。
