東北大学新聞:

総長論文問題 大学の説明は根拠不明

井上総長らの論文5本に再現性がないと指摘された問題で、これまで日野秀逸前経済学研究科長や大村泉教授(経済学)、関本英太郎教授(情報学)、高橋禮二郎(鉄冶金学)、野村正實(経済学)、安田一彦(経済学)、多元物質科学研究所教授12名、梶谷剛教授(結晶工学)の学内教員は公に文書で疑惑の解消を求めてきた。

09年1月16日、大村教授と高橋客員教授はナノ学会を通して共同刊行学術誌Materials TransactionsへLetters to the Editor制度を使い、井上総長らに対して質問する論文を投稿した。ナノ学会編集委員会は2人の論文を受理し、1月22日、井上総長らに対し回答するようメールで要請した。ところが、大学は「ナノ学会に権限がないため、返答する必要はない」と説明しており、井上総長らは延長された期限までにも返答しなかった。これに対し2教授は「権限がないとする根拠が不明」として、6月23日に飯島敏夫理事と渡邉誠前理事に対し公開質問書を提出した。回答期限は10日以内、7月3日までを目処とした。
井上総長らが返答する必要がない根拠として、09年2月17日、渡邉誠理事(当時)は教育研究評議会で次のように述べた。「同誌(Materials Transactions)においては、『問題が生じた場合には、その論文の著作権を持っている学会が責任をもって対応する』ことが合同編集会議の取り決めとして確認されている」(原文ママ、括弧内は本紙記者による補足)。問題とされている93年の論文の著作権は日本金属学会にある。この大学の説明は、本紙5月号1面の記事「ナノ学会が総長らへ回答要請。本学『ナノ学会に権限なし』」で報じられた。学友会報道部の質問に対する大学の回答(09年4月30日付)の一部である。
これに対し2教授は「合同編集会議の『取り決め』がいつなされたのか不明」と主張する。
2教授は、合同編集会議の第9回議事録案と第10回議事録を手に入れた。
第9回議事録案(08年5月27日開催)には、「4.掲載論文の研究不正行為への対応について」として「問題が生じた場合には、その論文の著作権を持っている学協会が責任を持って対応することで合意した」(原文ママ)とある。
2教授はLetters to the Editor制度を使い論文を「投稿」したのであって「不正告発」をしたのではない。従って、この合意は根拠ではない。
また、第10回議事録(09年4月21日開催)には、「3.共同刊行前身誌掲載論文および今後の方針について (3)上記(Materials TransactionsのLetters to the Editorへの投稿)に関する今後の対応」として、「前回の議『共同刊行編集委員会にて、Materials Transactions掲載論文については、著作権を持っている学協会がそれぞれ責任を持って対応する』を再確認し、当該論文の著作権を持つ金属学会が対応することにした」(原文ママ)とある。
「『前回(第9回)』の議を『再』確認した」と議事録にある。しかし前回の合意は「研究不正行為への対応」、つまり「不正告発」に関するもの。Letters to the Editor制度では「再」確認でなく、「初」確認が正しい。この「初」確認された「取り決め」がなされたのは、09年4月21日のこと。一方、ナノ学会が井上総長らに質問を要請したのは、それより3カ月前の1月22日。従って、「後出し」であるこの「取り決め」も適用されず、根拠ではない。
さらに1月22日以前に「取り決め」がなされたことを示す記述は2つの議事録にはない。それでは大学は何を根拠に「ナノ学会に権限がない」と主張するのか。議事録に誤記があるか、もしくは第9回、10回議事録を読んだ大学が「Letters to the Editor制度にも適用される」と勘違いしたと考えられる。
2教授は、質問書で以上のように指摘し「東北大学の名前で、このような時空を超えた言及を行い、ナノ学会に対して、極めて失礼な対応をなされたのです。貴殿はこの責任をどのようにとるおつもりでしょうか」と尋ねている。
なおLetters to the Editor制度は学術誌への投稿方法の一つで、論文の読者が意見・質問し著者が回答する遣り取りを誌面で公に行えるもの。
6月19日、「取り決め」の事実関係を確認するため学友会報道部は日本金属学会に対し質問状を送り、証拠となる議事録のコピーを要望した。回答期限は6月26日とした。
もし「取り決め」が存在しないならば、井上総長らはナノ学会の要請に答える必要があったことになる。森永正彦日本金属学会長(当時)は大村教授らの質問に対する回答(08年7月18日付)において、「論文の内容に疑義が生じた場合、その説明責任は著者にある」(原文ママ)と述べている

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