夜のピクニック第2弾! 失われた青春を取り戻せ!
高校の遠足。僕たちはとある動物公園に行った。近くで僕の憧れの女の子Y子ちゃんがいる。「レッサーパンダかわいいね」Y子ちゃんが僕に話しかけた。
「うん。そうだね」僕はそんな返し方しかできないやつだった。でも、楽しかった。そして、ついに楽しい遠足が終わる時間になった。僕はY子ちゃんに呼び出された。「実はウチ、僕くんのことが…」
僕は夢から覚めた。そして気づいた。僕は確かに高校の時の遠足で動物公園に入った。しかし、あの女の子との接触も、まともな思い出もほとんどないということに。そして、思った。
「このままじゃだめだ。大学生となった今からでも遅くはない。そうだ、ピクニックにでかけよう。そして最高の思い出を作るのだ」
聞けば我が報道部では僕が入部する前に夜のピクニックに出かけて、覚醒した人がいるというではないか。よし、僕も覚醒したい。みんなを連れて夜のピクニックに出かけるのだ!
そして当日、出発は深夜0時きっかりを予定していた。現在11時55分。部室には僕を含めて3人しかいない。報道部で数々の伝説を残している通称Fと報道部一の常識人リュウタだ。しかし、3人でピクニックとは寂しすぎる。参加したい!覚醒したい!と聞いていた人があと2人いたはずだ。Kとリョータだ。僕はKに電話する。「あと10分ちょっとでつく」堂々の遅刻宣言だ。もう一人、リョータにメールしてみる。返信がきた。内容は「すまんがちょっといけなさそう」しかし、僕には「君はまだ知らないかもしれない。この夜のピクニックという企画は非常に恐ろしいものだ。僕にはそれに耐えろなんて無茶はできないのだよ」と書いてあるように思えた。くそぅ、ヘタレめ。これから、リョータのことをヘタリータと呼んでやる。出発前は偉そうに「仲ノ瀬橋あたりが一番つらいんですよ。そこ渡ると案外なんとかなるもんです」などと言っていたくせに!今回は仲の瀬橋通らないんだよ!もうヘタリータのことはどうでもいい。時間もないし、出発だ!と思った。だけども、ここでまた問題が発生した。Fが行くのめんどいなぁとぼやきだしたのだ。僕たちは最初は冗談だと思い、いつも通り無視をして、先に部室を出て待っていた。しかし、来ない。「オイ、コラ、F」先輩だからって容赦はしない。僕は声を荒げた。アンタに僕の気持ちが分かるか?街で流れるラブソングを聞くたびに胸にぽっかり穴があいたような思いが!新歓の時に出身県を聞かれ、「福井県?ああ、九州の方だよね?」とあんたに言われた僕の思いがっ!部室に戻り怒りをぶちまけるとFはしぶしぶ出てきた。さあ、出発だ。
行き先は朝日山公園。そこには大きな池があり、水鳥たちがいるらしい。高校の遠足のときの動物公園にそっくりではないか。距離は約20キロ。5時間くらいでつきたいと考えていた。
僕たちは部室を出発し、大橋を渡った。しかし、ものの数分で帰りたくなった。今なら引き返せる、帰りましょうと口に出そうかと思ったが、ヘタリータの気持ち悪い笑い顔が目に浮かび、僕は黙っていることにした。僕たちはそのまま青葉通りを東に進み、東二番丁通りを南進した。夏はもう過ぎ夜はもう寒い。その中で隣には元気にはしゃぐFの姿。よく見れば彼は半袖のTシャツを着ているではないか。しかも、聞けば、10時までバイトをしていたというではないか。アンタ…元気すぎるよ…
しばらくして、僕たちは愛宕大橋を渡った。ここでやっと青葉区を出て、太白区に入った。僕はまだ青葉区を出たばかりかと思い、帰りたい、まだ、引き返せるという思いが再び頭をよぎった。その時、僕の頭の中に高校の頃の思い出が駆け巡った。好きだったあの子があんな奴と付き合っていると知った日。そして、僕のあの子への恋心とあの子とあいつとの関係の両方を知っていながらそれを教えてくれなかった友人…目から何かが溢れそうになった。そして僕は自分に問いかけた。なぜ僕はここにいる?そして、どこへ向かっている?僕の失われた青春を取り戻すためじゃないか!そして、向かう先はただの公園ではなく輝かしい未来じゃないか!それを思い出した僕は迷いを捨て、前へ進みだした。
しかし、愛宕大橋ぐらいから人通りも車道を走る車も明らかに少なくなってきた。疲れも出てきた。それは他の3人も同じようだった。ここで場を盛り上げようとFがふつうの公園を指さして「ほら、あれが朝日山公園だよ」と言っていたが無視して、長町のザ・モールへ向かった。西友で休憩をはさむためだ。
西友につき、僕たちは店の前のベンチで休んだ。すると、おばあさんが話しかけてきた。聞くところによると、携帯を忘れたらしく、貸してくれとのことだ。困っている人はほっとけないと普段から話しているFが快く貸した。すると、おばあさんはお礼にと今さっき店で買った天重とひれカツサンドをくれたのだ。僕たちは悪いと思い、最初は断った。しかし、おばあさんがどうしてもというので僕たちは受け取ることにした。だけど、正直、荷物は増えるわ、消費期限あと30分くらいですぎるし、天重には箸がついていなくて、食べることができないわで有難迷惑だった。
休憩を終えた僕たちはそのままモールから南に進んでいった。ここからはしばらくまっすぐなので地図を気にする必要もない。
西友から40分ほど歩いたところで名取川にまたがる太白大橋にさしかかった。太白大橋は無駄に長く下を見ると暗くて怖かった。ここでFがあるものを見つけた。墓地だ。深夜の車のない車道を横に、橋の下にある墓地を見下ろす。耳を澄ませば、川の流れる音。男4人で一人はカメラを持っている。怖すぎる。Fがここぞとばかりに持っているカメラで写真を撮り出す。F、あんた最高だぁ!
そして、太白大橋を渡りきり、名取市に入った。僕たちは仙台から出たのだ。しかし、名取に入っても道行く人はいない。時計を見ると3時を過ぎている。当然だ。こんな時間に閉まっている店ばかりの道を歩いている人など普通はいないだろう。時々通るトラックの運転手は僕たちのことをどうみているのだろうか。
道には閉店した店すら少なくなっていき田んぼが増えてきた。実った稲の香りとゆるやかな風が気持ちよく、疲れた僕の体を癒してくれた。二次元の世界以外にも僕を癒してくれるものがあるのかと思いうれしくなった。
僕たちは目的地まで最後のコンビニで最後の休憩をとった。僕の体は限界に来ていた。リュウタとKも同様だった。二人ともコンビニの脇でぐったりしていた。しかし、Fだけはピンピンしていて、コンビニの中で立ち読みしていた。
コンビニから出発すると僕たちを待っていたのは一面田んぼの風景。はじめは爽快で歩いていて楽しかった。しかし、次第に疲労も加わり変わらない風景に飽きてきた。そして、ふと思った。もしかしたら、僕の人生はこの田んぼ道のようにこれといった出来事もなく社会の歯車として回り意味もなく、終わっていくのだろうか。そう思うと今までの疲労がどっと押し寄せてきた。苦しい…やめたい…帰りたい…そう思った。その時、僕の道を指し示すように太陽が昇ってきた。気づけば、もう日の出である。その太陽の陽射しが僕の疲れ切った体を癒してくれた。そして、僕に道を指した。「君の人生は無意味なんかじゃない。考えてもみなよ。君は報道部に入ってこうして楽しい日々を送っているじゃない。それはきっと意味があることだよ」
気付けば、僕たちは岩沼市に入っていた。朝日山公園までもうすぐだ。田んぼがなくなり、住宅街に入った。親切なおじさんが朝日山公園までの道を教えてくれた。朝日山公園の入り口は少し坂があってきつかった。しかし、その坂を上りきったら、朝日山公園の看板が見えた。到着だ。池の鳥さんたちは僕たちの到着を待っていたかのように水面で優雅に舞っていた。これまでの長い道のりが思い出され、目から何かが溢れそうになる。Fはうれしさのあまりトイレにこもってしまった。半袖はやはり寒かったようだ。そして、僕たちはトイレにこもっているFを放っておいて、公園の遊具で遊んだ。みんな疲れを忘れて無邪気にはしゃいでいた。
帰りの電車の中で僕は二度と戻らない高校時代を思い出していた。それは儚いものだった気がする。しかし、僕の人生を語る上で欠かすことのできない大事な時間だ。もちろん、あの子のことも忘れることはないだろう。けど、今は今という時間の方がもっと大事だ。その時間を楽しみたい。そう思いながら通学途中の女子高生の姿をいやらし…ほほえましく、男子高生の姿をうらやましく見送った。
