東北大学新聞:

性染色体の変化が新種を形成 野外動物で初めて実証

本学大学院生命科学研究科の北野潤助教らの研究グループは生物進化について性染色体の変化が新たな種を形成させたと考えられる事例を発表した。性染色体の変化が種の形成に重要なのではないかという仮説や傍証はこれまでにも存在したが、北野助教らはこの仮説を野外動物で初めて実証した。

クジャクはオスの方が派手な翼を持ち、メスの方が地味である。これは求愛行動の際、より目立つ方がオスにとって有利なため。逆にメスが同じような派手な羽を持っていると外敵に襲われやすくなり不利なためである。このような性的葛藤の対象となる性質がどのようにして進化するのかはまだ分かっていないことが多い。
その性質が進化する遺伝機構には大きく分けて二つあり、一つは突然変異の起きた遺伝子が性染色体上に存在している場合。もう一つは性ホルモンに反応してオスにのみその性質が発現する場合とがある。北野助教らの研究グループはトゲウオ科のイトヨという魚について研究し、イトヨの種の分化には前者の機構に関連していることを示した。
イトヨは北半球の水温の低い地域に生息し、日本にも北海道東北地域の海に生息している。しかし、日本海のものと太平洋のものとではその種類が違う。日本海型は200万年前の氷河期に地理的に隔離されている。そのため日本海に取り残された集団は独自の進化をたどったと考えられている。
日本海型のオスは太平洋型のオスに比べ、プリッキング(交配時に背中のとげでメスをつつくこと)が激しく、身体が小さいという特徴がある。北野助教らは太平洋型、日本海型のメスを両型のオスのいる水槽に放ち観察した。結果、太平洋型のメスは強いプリッキングと小さな体サイズを持ったオスが嫌いで、日本海型オスとは殆ど交配しないということが分った。さらに、連鎖マッピングという手法を用いてプリッキングと体サイズの違いを生み出す遺伝子が染色体上のどこに存在するかを解析した。連鎖マッピングとは交配させて誕生した雑種と両型を交配させ、孫の代で生まれたイトヨの染色体を調べるというものである。
染色体とは多数の遺伝子が集まってできており、個体ごとにその数が決まっている。また、それらは全て異なったもので、基本的に同じ染色体はない。なので、それらを区別するために一つ一つ番号が振られている。
太平洋型のイトヨは19番が性染色体である。実験の結果、日本海型のイトヨの性染色体19番と9番にプリッキングや身体のサイズを決める原因があることを突き止めた。太平洋型の方では常染色体9番は性染色体ではない。日本海型はこの常染色体9番と19番が融合し新しい性染色体となっている。この新しくできた性染色体にその種に有利な突然変異遺伝子が溜まっていった結果、太平洋型のイトヨからの種分化が起きたと考えられる。つまり、性染色体が変化したことで太平洋型のオスにはない性質をもった新しい日本海型のオスが誕生したのである。
進化生物学を通じて人の病気を理解しようとする進化医学は、現在急速に発展を遂げている。北野助教によると「性染色体と常染色体の融合は人間でも一定の割合で起こっており、生殖能の低下などを招くとされている。本来は進化の途上で生物多様性を生み出してきた機構が人間ではこのような病気を引き起こしてしまうのかもしれない。従って、染色体の融合が起こる機構、さらにその生物への影響を解明することは、染色体疾患を理解する上でも重要な知見になると期待している」と語った。

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