たこ焼きの汎用性と対費用効果に関する考察
序文
SUSHIバーに代表されるように、近年欧米では日本食が脚光を浴びている。例えば次のような光景は、リーマンショック以降家計の逼迫したアメリカの中流階級の家庭で普遍的に見られる光景である。「ヘイ、ローザ、今日のおやつはなんだい?」「ジャパニーズのトラディショナルフード、たこ焼きよ。マイダーリン」
なぜ彼らは数あるOYATSUの中からたこ焼きを選択したのだろうか。そこにはいくつかの注目すべき論点がある。第一には、ハッチャンが2004年に行ったたこ焼きに関するリサーチが明らかにした、たこ焼きの汎用性である(Hachan Happonashi,et al.,2004)。「人々はたこ焼きの具として時にチーズやモチ、ワサビを入れ、気分に応じたテイストを楽しんでいる」とハッチャンは述べている。
また、たこ焼き研究に定量的研究を初めて用いた、津麻洋二の対費用効果に関する考察も参考となりうる(津麻,1980)。「早い話、小麦粉とタコ(そしてたこ焼き器)があればたこ焼きは作れます。そこに庶民の味として親しまれるようになった秘訣がある」「たこ焼きは他の小麦粉を使った料理と比べても、その希釈率は特に高い。少ない小麦粉から間食として十分な食べ応えが得られるのである」(同,1980)
本考察では以上の指摘に対して、その正当性を確かめるべく実験を行った。
方法
参加者は東北大学報道部の部員8名。調査者である筆者も参加しての参与観察である。参加者は実験開始時に調査者からたこ焼きを2010個調理し完食するよう指示された。その際に中に入れる具材には特に指定がなく、必要に応じて好きな具材を使用して構わないこと、この実験において必要となる食材費は全て自己負担である旨が伝えられた。
結果
実験条件の提示に対する参加者の反応は様々であった。その無謀な目標に怒りを顕わにするもの、お財布の中身を心配するものなど批判的な反応が多かったが、開始時点での皆の表情には隠しきれない期待感が垣間見れた。早速たこ焼きのカリスマぶりが発揮されたと言える。
調査者の開始の合図で実験が始まると、参加者たちの手によってたこ焼き器にタネが注がれた。たこ焼きについて何か誤解している参加者がタコを買わずにソーセージや屋台のウィンナーを買ってきてしまったが、これはハッチャンの指摘を裏付ける行動である。
タコ代わりに細かく切ったソーセージをいれ、しばらくするとタネの表面が焼けて鉄板との間に隙間が出来た。それを確認した参加者たちの顔に緊張が走る。たこ焼き作りで最も難しくリスキーな「返し」の時がきたからである。英語圏のたこ焼き愛好家たちはこの瞬間を文字通りターニングポイントと呼ぶと言う。参加者の一人が果敢にも竹ぐしで「返し」に挑むと、他の参加者たちも次々に自らのターニングポイントに臨んだ。
そんな風にして実験は続き、100個、200個とたこ焼きが量産されていく。そして、それに反比例するように参加者たちの顔色からは生気が失せていった。やはり2010個は無謀だったか。映画「es」のように些細な実験が大惨事につながることを危惧した調査者の判断によって、286個という微妙な数字で実験は中断された。
考察
残念ながら目標は達成できずに実験は中断となったが、考察には十分なデータが得られたように思う。
まず、様々な具材のたこ焼きを作るのはそれなりに楽しいものであることが立証された。今回の実験では他にもチロルチョコやバウムクーヘンがタコの代わりに投入されたが、どれも斬新な味で参加者たちの話のタネになった。唯一注意すべきはたこ焼き粉に既にダシが入っているため、甘い物との組み合わせが最悪なことである。
次に、たこ焼きは食べ応えがあるわりにローコストで済むのも事実である。特に今回は中の具にソーセージを使ったため、一つ分の材料費は10円もしないのではないだろうか。ゆっくり作りながら食べることも満腹感を高めたように思う。しかし安いからといって調子に乗って食べ過ぎると、今回の参加者たちのように当分のあいだ小麦粉料理全般に対する忌避感情が芽生えてしまうので気をつけていただきたい。
