歯学助教を解雇の総長 自身の疑惑にも”歯”切れよい説明を
09年、本学は2件の研究不正疑惑へ結論を下した。1件目は調査の末、不正を認定して助教を「懲戒解雇」に。2件目は審議の後、告発却下で「門前払い」。一方は、「特例」の対応委員会が告発より前に準備されるなど、研究不正を巡る対応の差に、学内でも疑問の声が上がっている。
1件目は、本学歯学研究科の教授2人と助教1人に関する研究不正疑惑。昨年08年7月1日、日本細菌学会から大学へ告発があった。同年7月15日、本学の「研究活動における不正行為への対応ガイドライン」に則した調査委員会を野家啓一理事(当時)が設置。調査委員会は09年3月12日付報告書(以下、助教・報告書)で3人の研究不正を認定し、09年12月4日、井上明久・本学総長は情状に応じ教授2人を停職、助教を懲戒解雇とする懲戒処分を下した。教授1人と助教は不正を否定している。
2件目は、井上総長に関する研究不正疑惑。今年09年10月9日、本学教授ら4人から大学へ告発があった。しかし今度は、ガイドラインにない特例の対応委員会を飯島敏夫理事が設置。対応委員会は09年11月18日付報告書(以下、総長・報告書)で、科学的合理的理由がなく告発は却下すべきと結論づけた。告発に対する飯島理事の09年11月19日付回答によれば、特例の対応委員会は告発より3カ月以上前の理事・副学長会議で了承され、予め準備されていたが、評議会などに一切提示されていなかった。
助教・報告書は添付資料含め157ページ。08年7月18日から09年3月9日まで24回の調査委員会が開催され、調査には8カ月近く時間がかけられた。一方の総長・報告書は添付資料などなく、わずか3ページ。09年10月9日の告発から同年11月18日の報告書発行まで40日間ほどで審議は終わった。
また助教・報告書の場合、疑義を呈された画像のデジタルデータを調査委員がパソコンを用いて調査した他、民間業者2社に解析を依頼した。助教ら3人や他の論文共著者へ事情聴取も行うなど、捜査当局顔負けの徹底した調査が実施された。ただ実験の生データがまったく保管されておらず、疑義のある画像は再検証されなかったという。
一方、総長・報告書の場合、対応委員会は論文に掲載された画像を視認しただけで告発に科学的合理的理由はないと断定した。画像は09年9月発行の学術誌で公表されたもの。生データは残っているはずだが、対応委員会は現物の確認や、第3者へ再検証を依頼するなどしなかった。
助教らへの告発は、複数の論文で同一画像が使い回された疑惑である。総長への告発は、同じ生データである実験の成果物を撮影した2枚の画像に写ったものが本当に総長らのいう通り金属ガラスなる特殊な物質でできているのか、というものだった。それに答えるには、X線装置で成果物を再検証する必要がある。検証方法とその必要性は、本学工学部の学生実験でも教えられるような、研究者としての「基礎の基礎」である。後の研究者に再検証の手だてを残さない手法は、「独善的」との批判を免れない。
この点から見ても、金属ガラスの専門家3名(実験研究経験者はその内1名)を含む5名で構成された対応委員会が、2枚の画像をなぜ再検証しなかったのか。疑問の声が上がるのも、無理からぬことである。
研究は独りよがりの自己満足であってはならない。このことは科学を志す者なら誰しもが認める共通倫理だろう。研究成果は後世の厳密な検証に耐えてこそ、その輝きを増していく。批判には真摯に向き合い、自己の主張をわかりやすく紐解いて、丁寧な反証を提示する――。そんな虚心坦懐な姿勢を決して忘れないでいたい。研究費が先細りするこんな時代なら、なおさら心がけたい、科学者としての「たしなみ」である。
