研究倫理の徹底と適正な調査手続きを求める
研究倫理の欠如とそれに対する本学の対応体制が問われている。研究不正の真偽が明らかになったわけではないが、元助教の研究姿勢と調査委員会による対応姿勢の双方に問題があると言わざるを得ない、
元助教は十数本の論文で画像データ等の流用による研究不正の疑惑がもたれた。調査委による画像解析の結果、11論文20項目という多岐にわたる研究不正があったと認定。昨年12月には元助教懲戒処分が発表された。
ここで一連の背景と問題点を整理する。ただし、研究不正それ自体の真偽は定かではないことを前提とする。
まず、元助教における問題点として、実験で得られたオリジナルデータの紛失が挙げられる。オリジナルデータを保存しておくということは、研究者作法の「いろは」の「い」であり、当たり前のことだ。仮に今回のような研究不正疑惑が浮上した場合、自身の潔白を証明する最良の手段はオリジナルデータを提示すること。そうでなくとも、科研費によって研究をしている以上、社会的な説明責任を果たすためにはオリジナルデータが必要となる。紛失したという時点で、研究者の資質を疑われかねない。
次に大学の調査委の問題点として以下の2点が指摘されている。①元助教が再実験の申し出をしたが、それを認めなかったこと②予備調査が省略されるなどガイドラインに沿った対応がなされず、事案ごとにことなった運用がなされていること。
データが紛失している以上、元助教が自身を正当化するには再実験しかなく、その機会が与えられなかったことは調査委の落ち度であろう。いたずらに時間稼ぎのための再実験は認められないが、今回はそれに当てはまらない。画像データの解析は精巧なものであり、外部への解析を依頼するなど相当な力の入れようだった。一方、調査委は再実験に対して積極的な姿勢は示さなかった。今回の争点は画像データの流用があったか否かであって、再実験の必要性は生じないという主張もある。しかし、オリジナルデータが紛失している以上、次に求められるのは再実験による証明であるはずだ。研究者の一生を左右しかねない案件であるだけに、慎重な対応が必要だったのではないか。
また、ガイドラインの適応が事案ごとに異なることは、厳しく問題視されるべきだ。日本細菌学会という専門家集団からの告発であるため、予備調査を省略する正当な理由がないわけではない。しかし、適切な手続きに基づいて調査が行われなければ、その調査結果に反論する余地を与えることになる。研究不正の告発者と被告発者に対して十分な説明がなされた上で調査手続きが行われたかは疑問だ。
今回地裁による決定では、井上総長の論文不正疑惑(以下、総長論文問題)についての言及もある。総長論文問題の場合、ガイドラインにはない特例の「対応委員会」が立ち上げられ、本調査は開始されなかった。
ガイドラインは平成19年3月に制定された。研究不正に対する本学の体制を明文化することは重要であるが、その規定をないがしろにすることは、むしろ混乱を生じさせる。最適な研究環境を保持することは難しく、大学機構の根幹を揺るがしかねない。
いま求められているのは、正しい手続きで行われた厳正な調査に基づき、公正な処分が下されることだ。総長論文問題であっても、自身の疑惑に対する説明の義務と権利を重視しつつ、慎重な対応が求められている。
