産学官連携功労者表彰 文部科学大臣賞に2件 阿尻教授、安斎教授が受賞
「科学・技術フェスタin京都-平成22年度産学官連携推進会議-」が6月5日に京都市で開催され、関係者など約5千人が参加した。会議では産学官連携において大きな成果をあげた大学・企業関係者に対する功労者表彰が行われ、本学からは阿尻雅文教授(原子分子材料科学高等研究機構)らのグループ(化学技術戦略推進機構の市川和義氏、産業技術総合研究所の山内幸彦氏)が「超ハイブリッド材料の開発」で文部科学大臣賞を受賞。同じく、安斎浩一教授(工学研究科)らのグループ(日立研究所高橋勇氏、茨城日立情報サービスの谷本雅俊氏)も「鋳造CAEシステムの開発」で同賞を受賞した。
阿尻雅文教授は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「超ハイブリッド材料技術開発」プロジェクトのプロジェクトリーダーを担っている。平成20年度から始まった本プロジェクトでは、産業技術総合研究所(AIST)と化学技術戦略推進機構(JCII)など外部機関との連携により、異種材料の相反する機能を同時に可能にした有機・無機ハイブリッド材料の開発に成功。阿尻教授が発明した超臨界水熱合成法を利用した。
阿尻教授は超臨界反応および有機無機ハイブリッドナノ材料研究の草分け的存在。今回のプロジェクトで活用された超臨界水熱合成法は、原料液を急速に超臨界状態まで昇温させることで、超臨界水中で水熱合成反応を実現。水は374℃、220気圧で超臨界状態となり、液体と気体の境界がなくなる。こうした条件下では有機分子と無機分子がともに水中に溶解するため、ハイブリッド粒子の効率的な大量合成が可能となった。関連企業が共同で研究開発を進めるJCIIでは新材料の創製を行い、AISTは有機・無機ハイブリッド材料のナノ構造解析を担った。
従来の技術では困難であった有機物と無機物をナノメートル・分子レベルでの界面制御を可能にしたことで、両者の特性を低下させることなく、相反する複数機能を発現させた。
ナノテクブームから10年が経ち、電気自動車や情報通信機器への需要が高まるなか、高機能複合材料の幅広い応用が期待されている。阿尻教授は、「これまでの共同研究を通して、社会のニーズを知ることができ、それが新技術を作るきっかけとなった。産学官連携は新しいサイエンスのタネを生み出すものだと考えている」と語り、産学官連携の重要性を強調した。
安斎教授は1992年から大学やトヨタ自動車、日立製作所など複数の企業が参加する「湯流れ研究会」に携わり、技術者のための鋳造設計ツールを研究。金型内の溶湯の流れをシミュレーションにより求めることで、経験に頼っていた作業の効率化を実現した。商業化のため日立製作所と共同で「ADSTEFAN(アドステファン)」のシステムを開発した。
鋳造法は自動車のエンジンなど主要な工業部品には欠かせない技術。自動車エンジンはアルミニウムやマグネシウムの合金を高精度の金型鋳造法(ダイカスト)によって製造する。環境負荷軽減のためエンジンや車両部品の軽量化が進むなか、高い強度や安全性が求められている。ADSTEFANはこうした鋳造工程における溶融金属の流入状態や凝固課程についてコンピュータを使った精密なシミュレーションが可能。鋳造欠陥を事前に予測できるため、工期が短縮され、試作回数も削減できる。中小企業での利用も多く、コスト削減に大きな効果を発揮している。また、鋳造品の欠陥を種類・特性ごとに解析することで、より安全性の高い製品開発につながる。
現在ではアジアを中心に広範囲での利用が進む。毎年ユーザー会議が開かれ、現在はバージョン12まで更新。安斎教授が長期的な目標を見据えた基礎研究を進め、日立製作所がソフトフェアの改良、茨城日立情報サービスが商品の販売を手掛ける。「産」と「学」による効率的な協力関係が形成されている。
ADSTEFANの開発に至った経緯について、安斎教授は「私自身が企業出身であることが大きな理由。現場の技術者の苦労を少しでも減らしたかった」と当時を振り返る。「現場を知っていたからこそ、明確なニーズが見えていた」と語った。
